トランプ政権の関税(Tariffs)押し付けは自滅行為

1995年の春先だったと思うが、在米大使館勤務時代に、USTR(米通商代表部)と日本政府(橋本通産大臣、河野外務大臣)との、非関税障壁をめぐる徹夜交渉の裏方として、一晩をUSTRで過ごした。翌朝、記者会見があり、眠気眼で合意内容を聴いたが、米国が好都合に解釈した、中身のない合意だった。その時の合意内容は、米国からの部品購入増、自動車の販売系列ディーラーで、米国車を取り扱うといったようなものだった。あれから30年余り。今回の日米交渉でも、トヨタのディーラーで米国車の販売を取り扱うといったようなニュースが流れてきた。

結局、米国製の自動車販売は伸びず、一方で日本車は米国で確実にシェアを伸ばしてきた。米国は、自由貿易の旗手として、日本の市場をこじ開けようとしたが、うまくいかなかった。国際的な分業が進み、競争力のない商品は淘汰されていくのみである。米国車に競争力がないとは言わないが、日本の市場に参入しようとする努力が足りなかったのである。

1990年前後から、グローバル経済が急進し、日本からも多くの工場が中国などのアジアに渡り、空洞化現象が起きた。日本に残った製造業種は、自動車、鉄鋼業などの付加価値の高いものが残っているにすぎない。半導体、家電製品は、企業の競争力自体がなくなり、衰退の一途をたどった。

一方で、良質の労働力と整備されたインフラを求め、海外資本による、半導体等の工場誘致も進んでいるようだ。今さらグローバル化に背を背けることはできず、無理やり関税を引き上げたところで、その分野の投資や雇用が生まれるとは思いにくい。トランプ政権の関税の引き上げは、グローバル経済の流れに反し、むしろ自滅行為ではなかろうか。トランプ政権が、最終的に何を目指しているのかもわからない。(了)

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